本当のものは目に見えないんだよ

私は静かになった部屋で、窓から学生たちがボートを漕いでいる姿が見ている。美しい緑の木々が太陽の日差しを受けて輝いている。川辺に植えられた大きな柳の木の枝が、風に揺れている。
 風は、眼には見えないが、木々の枝や若葉を揺らす。深い谷やそびえる山や蒼い海原を吹き抜ける風、どこにでも風は吹いている。どこにでもあるのに、眼には見えない。ラジオから聞こえてくるエルトン・ジョンのメロディを乗せた電波も、呼吸を支える空気でさえ、人間は見たことがない。見えないから存在しない、と断言する科学を信奉する賢い人々。人間が知っていることは、宇宙のわずかな片隅のこと。科学は宇宙の存在理由については、沈黙して何も語らない。大切なことのほとんどが、いまだに深い闇の中に潜んでいる。この世は目に見えないもので満ち溢れている。
 私たちは目に見えない多くのものに包まれて暮らしているのだ。本当に大切なものは見えないのだ。愛や友情、優しさ、思いやり……大切なものは決して見えないのだ。見えない力、見えない世界、闇の世界の息遣いを知りたい。
 私は大きく息を吸い込んだ。
 『柳が揺れているのか? 風が揺れているのか? いや、そうじゃない。心が揺れているのだ』
 そう考えた瞬間、大きく揺れていた柳の枝の揺れが止まった。
 人間の目に見えない心の有様が、大きくすべてのことに影響するという目に見えない陰が目に見える陽に影響を与えるという「老子哲学」は科学的にはまだ解明されていない。しかし、私は、この「老子の智慧」が、やがて二十一世紀の理想社会に大きく貢献するに違いないと思っている。
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by masashirou | 2010-05-16 11:54  

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