映画「ミッテランコード」日本語脚本その8


81ビルの屋上

7名の狙撃兵がそれぞれのビルから指揮者のウォンを狙っている。
スコープから音楽に合わせて激しくタクトを振るリー・ウォンが見える。


82コンコルド広場

ロナルドはウォンの後頭部に光る望遠照準の赤い十字架のマーカーを見つける。
アメリーに無線が入る。

狙撃兵「アメリー警部、いつでも狙撃できます」
アメリー「了解。ロナルド教授、劇場の支配人によると、魔笛はウォンの楽屋の机に保管し、カーテンコールの時にウォンが自ら楽屋に取りに戻るそうよ……」

ロナルドは頷く。

ロナルド「アメリー警部。魔笛を探すのは私一人に任せて欲しい。私が失敗した場合だけウォンを撃ってくれないか?」
アメリー「教授が一人で!? それは出来ないわ」
ロナルド「テロが起こるまではあくまでも私の仮説なのです。捜査令状さえ出ていない捜査でパリ市警に迷惑をかけたくない」
ロナルドはアメリーに囁く。
アメリー「わかった」
ロナルドに無線を手渡す。
メアリー「何かあったらこれで話して。全員と交信できるから……、ただし、フランス語で……」
ロナルド「メルシー」
ロナルドは微笑む。
アメリー「みんな聞いて」


83新凱旋門広場の彫刻展示会場

ベッソンが左手に探知機をあてると反応が起こる。

ベッソン「反応があります。おそらく小型爆弾です」
バルマン「取り出せるか?」

ベッソンは時計を見る。
時計は19時52分を指している。

ベッソン「時間が足りません。それに本部の指示は右手をと・・・・」
バルマン「とにかく、やれ。責任は私が持つ。各自、防毒マスクを付けろ。左手を電波遮断幕で覆った後で、爆発処理作業にあたれ」
ベッソン「本部への連絡は?」
バルマン「いい。向こうは起爆装置の確保に忙しいはずだ。それに俺は、ロナルド教授を信じていない」
一瞬の沈黙。
ベッソン「了解しました」


84ウォンの楽屋

舞台はクライマックスを迎えている。
ロナルドがウォンの楽屋に入っていく。
楽屋の机の上に、白いパソコンが置かれている。
画面の中で、舞台の音に反応してグラフが激しく上下に揺れていた。
その横に小さな笛が絹のスカーフに巻かれて置いてある。

ロナウド「これだ」

ロナルドはゆっくりその笛に手を伸ばし、ゆっくりと背広に入れると同時に、マイケルが銃を構えて楽屋に入ってくる。

マイケル「そこまでだ」
ロナルド「マイケル……」
マイケル「喜んでください教授。ロナルド仮説がついに証明されました。教授の言われる共鳴現象が僕にも起きたのですよ」

シェーン・ブルン宮殿のモニュメント―――
マイケルの苦痛に満ちた顔―――

マイケル「私の先祖は王女マリー・アントワネットを救出しようとして、果たせなかった王女の恋人、スウェーデンの国王ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン公。彼は王女を死に追い込んだ民衆を憎むあまり、過酷な圧制をしいた。そして、大衆の反乱により撲殺された悲劇の王。その魂が突然、私の中に……」

沈黙が続く。

マイケル「その魔笛を渡してください」
ロナルドが胸の笛を触る。
マイケルの人差し指がわずかに動く。

ロナルド「わかった。だが、諦めたほうがいい。すでにグラン・ダルシュの手も電波遮断防護幕でシールされている」
マイケル「爆弾は左手のほうに仕掛けましたよ」
ロナルドの顔に緊張が走る。
マイケル「あなたが石を持つ右手の彫像を推理することは想定範囲内なのです」
ロナルドの額にうっすらと汗が滲む。ロナルドは、ゆっくり振り返る。
マイケル「さようなら。ロナルド教授。僕が学説は僕が引き継ぎます」
マイケルは拳銃の引き金を引く。
バーンッ―――
ロナルドはその場にうずくまる。
マイケルはゆっくりと、前屈みで倒れ潤んだ目でロナルドを見つめる。
その向こうに拳銃を構えてアメリーが立っている。
ロナルドはマイケルに駆け寄る。
アメリー「動かないで」
アメリーはマイケルの死体を踏みつけて、呆然と佇むロナルドに歩み寄る。
アメリー「ロナルド教授……」
アメリーはロナルドの首から無線を外し踏みつける。
ロナルドはアメリーを凝視する。
アメリーは手袋をはめるとマイケルの手から銃をとり、銃口をロナルド教授に向ける。
ロナルド「なぜだ?」
アメリー「ご協力有難う。ここでマイケルと一緒に死んでいただくわ」
ロナルド「君がこの事件の黒幕なのか……?」
アメリー「いいえ。だけど、この計画を組織に提案したのは私」
ロナルド「組織? マイケルも組織の一員なのか?」
アメリー「いいえ。彼は間抜けな死体よ」
アメリーはマイケルを足で転がす。
ロナルド「なぜこんなことに……」
アメリー「あなたが死ぬまでは私の協力者ですから教えてあげるわ」
ロナルドはマイケルを見つめながらうな垂れる。
アメリー「黒幕はオーストリアの製薬会社ゲッペル。ゲッペル社は、白人だけに効果的に効くエイズ治療薬の開発に膨大なお金をつぎ込んだ。しかし、完成しなかった。その時、精製過程で生まれた悪魔のウィルスNERO666」
アメリーはカプセルを取り出すとロナルドに見せる。
アメリー「なぜかこのウィルスは、フランス人の遺伝子配列に多く出現する特定の遺伝子配列に強く反応して肺機能を著しく低下させ死に至るの。 まさに、イエス・キリストの血脈を持つ、世界中のフランス民族を根絶やしにさせるウィルス。そして、このウィルスの治療薬が去年のクリスマスに完成したの」
ロナルド「すべてが罠だったのか?」
アメリー「馬鹿な学説を証明するために彼は良く働いたわ」
ロナルドはマイケルの手を掴む。
アメリー「偶然にも、彼の父の先祖がマリー・アントワネットを愛したハンス・アクセル・フォン・フェルゼン公だったのには私も驚いたわ。偶然とはいえ正直言うと、あなたの学説を利用するのにうってつけの人物だった」
ロナルド「では、ウォンも私の学説を証明するための……」
アメリー「ウォン? ウォンは著名な共犯者として選ばれたの。彼とは偶然ウィーンのシェーン・ブルン宮殿で出会った。彼には、モーツァルトの霊が共鳴する役回りを演じてもらうことにしたの」
ロナルド「ウォンはそのことは知らないのか?」
アメリー「もちろん彼は知らないわ。暗号に太極図を描いたのも、韓国人のウォンに疑惑を向けさせる工夫なのよ。彼はテロリストとなり、銃殺されるという筋書き。あなたとマイケルの会話は警察官全員が聞いている。最初の銃声はあなたがマイケルから撃たれる銃声。二発目の銃声は私がマイケルを撃つ銃声、すべての警官がそう証言してくれるわ。ただ順序が違うだけ……」
ロナルド「質問がある。爆弾はどうやって起爆させる?」
アメリー「起爆装置はこれ、この鈴の音色が増幅されて無線で爆弾に信号を送られる
マリー・アントワネットが鉄格子越しに鈴を渡している―――
アメリーはネックレスの鈴をロナウドに見せる。
ロナルド「魔笛は?」
アメリー「あなたをここに呼び寄せるための偽物」
アメリーは時計を見る。
アメリー「あと数時間で世界中のフランス人がパニックになるわ」
ロナルド「その時に救世主のごとく、ゲッペル社が免疫の血清を発売する」
アメリー「そう、お察しのとおりだわ、フランス政府はゲッペル社の言い値で買い取る。もちろん、私には巨大な報酬が渡される。決定事項なのよ。あなたが、ここで命を失うことも……教授」
アメリーはロナルドに銃口を向けると引き金を引く。
バーンッ―――
ロナルドは胸を抱えて倒れる。
血しぶきがウォンの楽屋の鏡に飛び散る。
アメリー「さようなら、ロナルド教授。……永遠に」


85コンコルド広場付近

一機のヘリコプターが待機している。
黒装束に身を包んだ女性がヘリに爆弾を取り付けている。
爆弾の装置が赤く点滅する。
フードの中から女性の顔が見える。
マリーである。
マリーは走りながら、ウォンがいる会場へ戻る。


86コンコルド広場 仮設会場内

アメリーが足早に歩いて、黒マントのマリーに目で合図をする。
マリーは、箱から時限装置爆弾を通路の柱に設置してボタンを押す。
ピピーッピピッ―――。
カウントダウンが始まる。
150・149・148……。

アメリー「急いで!!」

アメリーの声で、二人は一斉にテントの出口へと走りだす。
アメリーは走りながら警備中の警官達に叫ぶ。

アメリー「爆弾が仕掛けられたわ! 観客を非難させて!」

警官たちが観客たちを誘導して一斉に避難させる。
数発の銃声と叫び声が聴こえる。
オペラ劇場が逃げ惑う観客たちで混乱する。
アメリーは、遠くに見えるグラン・ダルシュに向けて、鈴につけられた起爆装置の紐を引く。
鈴が音を奏でる。
リンリンリン―――鈴の音


87コンコルド広場

大きな爆発音がパリの空に響き、凄まじい炎が天空に舞い上がる。
人々の叫び声がコンコルド広場に響く。


88新凱旋門広場の彫刻展示会場

爆弾処理班が右手に電波遮断幕を被っている。
ベッソンが風を感じると

ベッソン「爆風が来るぞ!! 全員電波遮断幕を抑えろ!!」

全員が電波遮断幕を抑えているが、今にも電波遮断幕が飛びそうになる。
爆弾処理班の向こうに観覧車がゆっくりと崩れ落ちる姿が見える。


89コンコルド付近 

アメリーがヘリに飛び乗ると同時に、ヘリが飛び出す。
ヘリのガラスに、コンコルド広場の炎が写っている。
やがて、シェーン・ブルン宮殿の奇妙なモニュメントの悪魔になる。
その場所からアメリーが薄ら笑いを浮かべて、パリ市民が逃げ惑う姿を覗いている。


90コンコルド広場 会場付近

ウォンとマリー、燃える会場を見ているとヘリが上空に現れる。
二人は見つめ合うと同時に頷く。
その瞬間、ヘリは大きな爆発音と共に墜落する。
ヘリは、黒煙とガソリンの大きな炎に包まれながら、エトワール凱旋門に激突し大破する。 マリーがヘリに仕掛けた爆弾の起爆装置を手に握り締めている。

マリー「ウォン、これでいいのね」
ウォンは静かに頷き、女の肩を抱き寄せた。震える女の唇にキッスをした時、闇の向こうから爆発の閃光が、二人を照らし出した。爆風による強い風が二人の周りに渦巻く。
 風がやむと同時に、ウォンは全身の筋肉が溶けていく感覚に陥った。女の細く長いカマキリのような指に、挟まれた注射器の針が、妖しく光った。その注射器の中には、南米の密林ジュバという木から採取された緑色の強力な幻覚剤が入っていた。密林の王、巨大な大蛇アナコンダでさえ、一滴の雫で数週間、眠らせる威力を持つ薬である。それは、小さなエッフェル塔のような形状をしていた。そして、幻覚剤は甘い香りを放った。
 ウォンの柔らかくしなやかな肉体が、スローモーションのように倒れ込んでいく。十八世紀の石畳の上に、ゆっくりとウォンの頭が数回、バウンドすると、ウォンの表情が苦痛に歪んだ。
 消防車から放水される水しぶきがウォンの顔にかかる。一つ、二つ、やがて無数の雫でウォンの美しい顔が被われていく。雫の球面には、燃え上がる劇場の炎が映し出されて、揺れていた。消防車のサイレン音が次第に大きくなっていく。



91 ウォンの幻覚

ウォンの瞳の瞳孔の中に、女が立ち去る靴音が響く。女のシルエットが次第に小さくなっていく。はっきりしていた女の輪郭がぼやけていった。
 ウィーンの奇妙なモニュメントで聞いた、幼い笑い声が、薄れゆく意識の中で、聞こえてくる。ウォンの動かない瞳孔に、幼い男の子と女の子が手をつないで、炎上する凱旋門に向けて走っていく姿が映っていた……。

オペラ「魔笛」最終章の映像が、蜃気楼のように画面に現れる。
太陽が光り輝き、夜の女王軍は打ち負かされる。大きな太陽が舞台中央に浮かび上がる。正義の軍は夜の女王軍に勝利する。全員が新しい時代の到来を祝う。


92パリ市内 

凱旋門が復旧されている。
コンコルド広場で子供たちが遊んでいる。


93ドバイのあるホテル

サイートがテレビを見ている。
CNNニュースからアナウスが聴こえる。
キャスター「コンコルド広場での爆破テロでは35名の負傷者と死者2名。死者はパリ市警のアメリー警部と、オクスフォード大学大学院生のマイケル・ペイドンさんと思われる遺体が発見されました。いずれの遺体も爆発の為に損傷が激しく確認作業は困難が予想されます。今回のテロに深く関与されたと見られるゲッペル社は、今回の事件にまったく無関係というコメントを表明しましたが、フェルゼン会長はじめ、社長および重役陣が辞表を提出しました。しかし、すでにフランス政府から事件解明の要望書が提出され、国際裁判所で刑事責任がまだまだ追及される予定です。」
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by masashirou | 2009-12-10 09:47  

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